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Posted by だてBLOG運営事務局 at

2011年04月17日

スイミング

足先からゆっくりと黒い水の中に入れる。障害物を避けて岸までの最短コースをイメージする。
首まで入った。防寒着がまだ空気を含んで浮力を保っているうちに急いで、ゆっくりと水の中を進む。
よし、順調だ。

それほど苦難無く。陸にたどり着いた。助かった。死なずに済んだ。
感動に浸っている間はない。水を抜けるとずっしりと体が重い。足はかなりヤバイようだ。
靴は片足しかない。濡れた靴下が泥の上で気持ち悪いが、危険で裸足にはなれない。
鋭くとがった材木やトタン屋根、むき出しの釘。

この山を登れば高田一中の避難所だろう。しかし、瓦礫の山が進路を阻む。進んでは戻り、進んでは戻り、瓦礫の上に登れば周辺の状況がいくらか把握出来ようが、むき出しの釘が怖い。右ひざが痛い。左足は重い。いつの間にか、さっきまで居た、探し物をしていた人々の姿が消えていた。
ほかの場所を探しに行ったのか?

足が痛くてきつい。この場で救助を待つか?

いや、この場も安全ではない。救助もあてには出来ない。何とか山を登ろう。
最初こそ獣道があったが、すぐにイバラの藪漕ぎとなった。
これが命にかかわることのない、渓流釣りならすぐに断念している。
人生で最難関の藪漕ぎ。その先にあるのはトラウト天国ではなく、命の保証。
しかし、全く進めない。傾斜が急な上に、イバラがきつくて。呼吸を整えながら進路を探す。

上のほうで人の声が聞こえた。
もう、一息だ。頑張れ!俺!
イバラの塊を慎重に束ねて避けながらフードをかぶった頭から押し込む。慌てなくていい。もう、お前は助かった。あとはなるべくケガはするな。

頂上が見えてきた。あと、20m。人の話し声が大きくなった。5人、いや10人。
「頑張れー!あと少しー!」
これは自分の声ではなく、上からの声。
なんだ、励ましてくれる人も居るじゃないか。あと、10m。
人の影が見えてきた。  


Posted by タンゴダンサー at 09:55Comments(0)BIG WAVE

2011年04月16日

サルサ、メレンゲ、ルンバ

何とかかわした。しかし、今度は大きな一軒家が流れてくる。
真っ二つに割れ、居間らしい部屋に、先祖の写真が飾ってある。その下は仏壇だ。
ぶつかった場合に備えてバランスのいいポジションを保ちながら、なおかつ、避けられるポイントへ移動を繰り返す。

一体、どこまで流されるのか?スーパー「マイヤ」の屋上に避難している人が見える。
このまま流されればマイヤの方向に向かっている。あそこまで流されたら飛び移ろうか。

流れが大分緩やかになった。今なら泳いで岸まで渡れそうだ。しかし、できるなら水には入りたくない。でも、もしかしたら、助かったかもしれない・・・

そう思ったら力が抜けた。流れ着いた一畳たたみの上に座って少し休んだ。座ってみたら両の足に全く力が入らなくなった。ふうーっと気が抜けた。どうやら挟まれたときに負傷したらしい。緊張が緩んだら急に痛み出した。これで泳げるか?小指が半分まで裂け、プラプラして血が流れ出してる。いつ切ったんだろう。これ、バイ菌入ったらヤバイな。
最後の力を振り絞ってとにかく、陸まで泳ごう。陸に着けばきっと助かる。あと、もう、ひと踏ん張りだ。一度は失ったと思った命を、もう一度始められる。
あとは、いかに被害を最小限に自分を救い出すか・・・・

よく考えろ!あるいはまだ助けを待つか。一体いつまで?
ん?・・・
山を下りてくる人が見える。じっと監察する。もしや、気づいて助けに来てくれたか。水際まで下りてきて何かを探している。どうやって助け出すか考えているのか?

いや、違う。本当に何かを探してるんだ。

「あのー、すいませーん。」緊急事態だ。すいませーんじゃないだろ。もっと強気でいけ。しかし、気分を損ねられてもいけない。「誰か、助けに来てもらえるように呼んで頂けませんかー!」

聞こえないのか、無視してるのか。反応しない。もう一度呼びかける。
反応しない。
「すいませーん。」
これは完全に無視だな。

流れが完全に止まった。今しかない。決断の時。  


Posted by タンゴダンサー at 23:09Comments(0)BIG WAVE

2011年04月16日

タップダンス

壁を登って光のある方へ。
上手く抜け出せたぞ!バランスを取りながら足場のいい所を探す。なるべく平らで広いスペースがいい。
しかし、丁度いい。と思っても直ぐに不安定に。ピョンピョンと屋根から屋根に飛び移りながら、自分の居場所を客観的に判断する。

北側の山は高田一中だ。次々に山を登って避難している人に向かって手を振るが、見えてるんだか、見えてないんだか、全くの無反応。

さてと、どうしようか?飛び込まないといけないだろうか。しかし、流れが速すぎる。流されて材木でも刺さったら終わりだ。誰か救助に来てくれないか。再び高田一中に向かって両の腕を大きく振る。目立つ色の赤い防寒着を着ているから分かりそうなものだが・・・・

助かった!
救助のヘリがやってきた。十分見える高さを飛んでいる。
有難い!こんなに早くに救助に来てくれるとは。
「おーい!ここだー!」ピョンピョンと跳ねる!

ダメだ!
気づかないのか?こんなにそばなのに!気づかないのか?やる気がないのか?
ダメだな。あれはただ、様子を見に来ただけだ。救助する道具は積んで無いのだろう。

おーい、さらに流れのスピード早くなってないかー?
このままだと、あのタンクにぶつかるぞ!あの火の塊にぶつかったら終わりだ!  


Posted by タンゴダンサー at 20:56Comments(0)BIG WAVE

2011年04月16日

ダンス!ダンス!ダンス!

一瞬でもうダメだと判断した。こんな大きな水の塊がもう、そこまで来ているのに、なぜ気付かなかったのだろう?

体が固まった。
「今、降りちゃイカン!」
もう一度室内へ。しかし、水の塊が2階の窓ガラスを簡単に破って入ってきた。部屋の奥のタンスが玄関に飛び出してきた。慌てて玄関を閉める。

何も音がしない。何も聞こえない。見る見る目の前の空間が狭まって壁が体を包み込む。つぶされちゃいかん。体位を次々に変える。眼鏡が何度も落ちそうになる。これを落としたら一気に形勢は不利だ。右手でしっかり押さえる。ああ、でもダメだ!「つぶれる!」人はこうやって死ぬのか。「のっこ!俺の最後はこんなか。」

どのくらいの時間?・・・・1分?3分?10分?
止まった。材木に挟まれて体は全く身動き取れないが、激しさは止まった。次の波が来る前に、ここを抜け出さないと。しかし、体が全く動かない。天井の隙間から青空が見える。頭の方向が上であることは間違いないようだ。ここに人が居ることをなんとか伝えないと。ああ、でも体が全く動かないんだ。誰か俺を見つけてくれー!

・・モゾモゾ体を動かしてたら、左足の靴が脱げてしまった。
「しまったー!あっつー」靴が脱げたらますます不利だぞ。

しかし、靴が脱げたことをきっかけに下半身が動くようになった。上半身は厚着してきた防寒着の背中が何かの材木に引っかかっているだけで、強引に引っ張って外した。ビリビリーっと裂けた音はしたが、お構いなし。よし、体が動くぞ!

  


Posted by タンゴダンサー at 20:33Comments(0)BIG WAVE